少年時代


 小学校以前の幼児時代、字もようやく読めるかどうかのころ鉄腕アトムの漫画を読むのが好きだった。たしか戦闘機の操縦を人間がやれば撃ち落されたら人命を失う。それではリスクがあるので、犬を訓練して戦闘機を操縦させれば人命に比べればマシだというようなストーリーで漫画には戦闘機のコックピットに犬が収まり操縦していた。実際漫画では頭は犬で体は人間の形をしていた。そうでなければ操縦するという行為はできない。多分1959-60年くらいの話である。
 ある日父の友人がやってきて、縁側で茶飲み話をしていた。幼児少年は何となくそのそばで二人の会話を聞いていた。そのおじさんは「俺、人間ドックに行って調べてもらったよ、」と話し始めていた。僕はびっくりしてそっとおじさんの近くによった。そしておじさんの首周りをよく見た。特に手術の跡があるわけでもない。こんなにきれいに戻るのか・・
 「人間ドック」と聞いて、そのおじさんの頭部を犬に変える手術をしたのかと思ったのだ。
「ドック」と「ドッグ 犬」幼児には区別がつかなかった。
  
 小学生低学年では言葉も良く分からない。親戚のおばさんが僕を見て「○○ちゃんは色男だね」と言った。考えてみればこれは誉め言葉である。しかし子供にしてみれば英語で言えばカラフルマン、つまり志茂田景樹氏のようだと言われているようで嫌だった。
 別の親戚のおばさんは嫌いだった。お彼岸ころにはやってきて線香をあげる。そこで母とおしゃべりしているのだが、詳しくは分からないが、毎回、毎回、誰かの悪口を言っているは子供にも分かった。どうしてこのおばさんは悪口ばかり言うのだろう。別のおばさんはお金の話ばかりでこれも子供にとっては無用のおばさんだった。しかしながらお正月になればお年玉をもらえるのでそれはそれでと割り切っている。嫌いだといっても近づくのも嫌だというほどのものでもない。

 逆に時々やってくる父の知人のおじさんは好きだった。僕には一人前の男として話しかけてくれ、引き立てのおいしいコーヒーを持ってきてくれた。喫茶店学校で勉強したらしい。リタイヤ後喫茶店を始めたいと言っていたが、結局店を始めることはなかった。

 小学低学年のころ気になっていたことがあった。父のトイレ時間が長いのである。「大」ならともかく「小」で長いのである。今考えてみれば高齢男性に多い前立腺肥大症によるものであろう。前立腺が肥大化し尿道を圧迫、勢いよく排尿しようと思っても圧迫された尿道はそれを邪魔する。もちろん子供時代の当時知るはずもない。父本人に「どうして?」と聞いたらまずいのではないか、隠してくべきこと明らかにして父の尊厳を傷つけるのではないかという気持ちが子供ながらにあったのだろう。ある日の父の友人が訪ねてきた。同世代のおじさんである。この件について「・・ということで、どうしてなんでしょう?」と父のいない場所で聞いてみた。
 そのおじさんは言った。「それはな、木刀を使わなくなったからだよ。」
 子供の頭には100% 剣道の木刀があり、それを使う使わない?確か父は剣道をやっていたか、柔道だったか・・どういうことだろうと疑問は解決しないままだった。

 いい加減の年齢になってあの時の「木刀」は何を示すのかは何となく想像できるようにはなったが、「木刀」の行使が前立腺肥大の防止に関係するという情報はない。